1 温泉神社とは

 宿の浴衣に下駄履きで狭い石段を上がっていくと、平らな境内地が開け、正面に社殿が現れる。手前に手水舎があり、手を洗い口を漱いで社殿の前に立ち、賽銭を入れて鈴を鳴らし、手を合わせて無病息災や子授け・安産を祈願する。境内地から見渡すと、温泉街が一望できる。

 どこの温泉地でも見られる温泉神社の光景である。ただし、温泉地によっては、神社ではなく、寺のこともある。また、その手水舎の中には湯気が立っていて、手を差し出すと、注ぎ口から水ではなく湯が出ている、というようないかにも温泉地というところも見られる。

 温泉はそれぞれの歴史を背にしている。その歴史を感じさせてくれるのは温泉神社である。古来、温泉神社は温泉の守り神であった。それは、同時に温泉を訪れる人々が健康を願う祈りの場でもあった。

 このような温泉地にまつわる神社や寺を温泉神社・温泉寺という。

温泉神社は、温泉地の地域共同施設であることが多いが、各温泉施設ごとに自前の温泉神社を有する場合もあり、また、いわゆる一軒温泉でも温泉神社があるところは少なくない。

 まずは、写真の神社をみてほしい。これは、福島県の西山温泉郷の老沢温泉にある温泉神社である。西山温泉郷は只見川沿いに温泉の点在する温泉郷であり、老沢温泉は、その支流の一つ老沢川の川沿いにある一軒宿である。

 宿の階段を川に面した湯小屋まで下りていき、脱衣所で服を脱いで浴室の戸を開けると、この光景が飛び込んでくる。浴室には湯温の異なる湯船が3つ並んでいる。なんとその奥の正面に、温泉神社が祀られているのである。神社には、参拝者の 持ち込んだ幟が何本も立てられている。温泉神社に健康を祈りながら、湯船に浸る入浴客の姿が目に浮かんでくる。

 この神社は、老沢温泉開設のころ創建されたそうであるが、そこには温泉神社の原型があるように思われる。

 これに対して、山形県の蔵王温泉は、西暦110年吉備多賀湯に発見され、蝦夷征伐で病んだ身体が完治したと伝えられる古湯である。蔵王温泉の温泉神社は、温泉地の守り神であり、その名を酢川温泉神社という。酢川温泉は蔵王温泉の古名であり、高湯温泉とも称せられていた。

 酢川温泉神社は、蔵王温泉の温泉街中心部の温泉発祥地とされる共同浴場下大湯から細い路地をまっすぐ進み、さらに石段を110段ほど登った高台にある。

 神社境内からは、蔵王温泉街ばかりでなく、遠くその先に村山盆地が見渡せる。紅葉の季節は絶景が見られる。

そうかと思うと、伊香保神社のように町中の温泉街の中心地にたたずむ神社もある。

本稿は、温泉の楽しみ方として、このような温泉神社・温泉寺巡りの案内をしようというものである。

温泉神社・温泉寺~温泉のパワースポット~

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