3 温泉神社の祭神

 野沢温泉は、古くからの温泉地の風情を残しながら、決して古さを感じさせない温泉であ。共同浴場の外湯巡りが楽しめる。温泉街の中心地にほど近い場所にある麻釜(オガマ)は、源泉の湧出地であり、9つの源泉が湧出している湯だまりがあるが、その傍らには温泉の守り神である釜神が祀られている。石の祠には大己貴命と少名彦名命の名が刻まれており、その説明板には、次のように記載されている。

「野沢では、昔から釜神様(カマガミサマ)と云う祭主は大己貴命=大国主命、少名彦命を祀り、両神は医療の法を教え、古来医薬の神として尊崇されている。温泉を以て病をいやし、療する事はこの二神がつかさどるので、温泉のあるところには、多くこの神が祀られている。」

これこそ、温泉神社の原始的な姿である。

この説明板にあるように、温泉神社の祭神は、大己貴命(オオナムチノカミ)と少名彦名命(スクナヒコナノカミ)である。

 大己貴命は、大国主命(オオクニヌシノミコト)として知られる神であり、国土保全、五穀豊穣をつかさどるとされる。温泉の存続を願ってこの神が祀られるのであろう。

少名彦名命は薬、健康をつかさどる神であり、温泉が古来病気治療・健康回復、維持の方法と考えられていたことを示している。

この両神が温泉神社の祭神とされる由来について、風土記逸文には、次のような記載が見られる(風土記・吉野裕訳(平凡社ライブラリー)より)。

北畠親房は伊豆の国の風土記を引用して次のとおり書いている。「温泉の由来を考察すると、太古天尊が降臨する前に、大己貴命と少名彦名命とが、わが秋津島の人民が若死にするのを哀れに思って始めて禁薬(医療)と温泉の方法を定めた。伊豆の神の湯もまたその中の一つで箱根の元湯がそうである。・・・普通尋常の出湯ではない。昼の間に二度、屋mぎしの岩屋の中に火焔がさかんに起こって温泉を出し、燐光がひどく烈しい。沸く湯をぬるくして、樋をもって浴槽に入れる。身を浸せば諸病はことごとくなおる。」(鎌倉実記)

 伊予の国の風土記にいう。大穴持命(大己貴命のこと)は、宿奈比古奈命(少名彦命のこと)を活かしたいと思い、大分の速見の湯を下樋によって持ってきて宿奈比古奈命に浴びせたので、しばらくして生き返って、いとものんびりと長大息して「ほんのちょっと寝たわい」といって四股を踏んだ。(釈日本紀)

もちろん、神社の祭神は、その神社の成り立ちと密接に結びついているとものであ

るから、祭神に一般的な法則があるわけではない。

現に、大己貴命及び少名彦名命を祭神としない温泉神社も存在し、他方でこの2神を祭神とする温泉神社でない神社も少なくない。

しかしながら、多くの温泉神社がこの2神を祭神としていることは紛れもない事実であるところ、その理由は、以上にみてきたとおり、この2神が温泉神社の祭神としてふさわしい存在であることによるもので、それなりの必然性があるといえよう。

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